プロデビューを目指す競輪学校生徒サイト

『自分なりのレースを。有言実行 ~井上玲美』

2013/03/12

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悔しい。
ふいに涙がこぼれ落ちる。
2月某日。333㍍ピストでの競走訓練だった。スタートで出遅れ、ダッシュもできず、そのままの順位でゴールした。レース後、指導教官から「前と離れたらダメだろ」と注意された。その時、井上玲美は泣いた。
「もう遅れっぱなし。付いていかないといけないのは分かっているんですけど…。自分が不甲斐なくて」
もうじき卒業である。5月にはガールズケイリンでデビューする。でも、まだ確固たる自信をつかめていない。「もっと強い選手になりたい」、そう決意して飛びこんだ勝負の世界。タイムが思うように伸びてこない。
純粋なのだろう。いつでも、ひたむきな25歳。ほおを少し赤らめ、深いため息をつく。
「まだ遅いので」
自転車歴は長い。ロードでは日本チャンピオンとなった。一昨年の全日本3㌔個人追抜き、全日本ポイントレースでいずれも優勝した。だが瞬発系の競輪では苦闘している。
使う筋肉が違うのだろう。ダッシュ力がまだ、弱い。もちろん、課題は本人が一番、分かっている。“頑張り屋”は漏らす。
「もっと練習をしないといけません。ダッシュ力、脚力をつける。筋肉をつけて、フォームをしっかりつくりたい。まだ、うしろのハムストリングをうまく使えていない。ま、やることはいっぱいあります」

自転車に恋して 

自転車にラブしている。
東京都出身。4歳からスイミングクラブに通い始め、小学校2年生の時、トライアスロンを始めた。水泳も自転車もランも好きだった。とくに自転車。

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「スピードが出るところが大好きでした。坂をだーっと下っていると、ジェットコースターに乗っているみたいなスピード感を感じることができます。なんか、ヤッターみたいな、すごくうれしくなるんです」
東海大菅生高校に入ると、自転車部がないため、家庭科部に入った。が、個人で自転車競技のロードに没頭する。自分で練習プランを考え、トレーニングを積んだ。
法大では自転車部に入部したけれど、2年生で辞めた。156㌢。からだが小さくても、タイムが出なくても、自分なりの自転車を楽しみたかったからである。
大学4年生の時、縁あって、ガールズケイリンのエキシビションを走った。ロードとは違う楽しさを感じた。初めて味わう観客の声援も心地よかった。
大学卒業後、パソコン関係の会社で働きながら、自転車を続けていた。ずっとパソコンの前に座り続ける仕事がつらくなった。自転車の方が楽しい。日増しにガールズケイリンが頭をもたげてきた。
悩んだ末、一昨年の夏、会社を辞めた。会社の社長と両親に相談したら、こう言われたからだ。
「人生に悔いのないよう、自分の好きなことをやっていいよ」と。
ホームバンクを京王閣競輪場とし、朝倉佳弘(90期)に指導をあおいだ。同競輪場には同期の石井寛子、貴子姉妹もいた。ふたりとも速かった。
「もう石井寛子さんは憧れです。貴子さんもどんどん速くなっています。ふたりともすごい。がんばって、ちょっとでもふたりに近づきたいと思っています」
謙虚というか、優し過ぎるというか。石井姉妹はこれから戦っていく相手となるのだから、もっと対抗心を燃やしてはどうか。「打倒!石井寛子」では、と言うと、右手を横に細かく振った。
「いえいえ。まだそこまで行っていないので…。まだ追いつく雰囲気がないです」

 まだすそ野。イバラの道を一歩ずつ。 

 モットーが「有言実行」である。口にしたことはちゃんと責任を持って実行する。そう肝に銘じてきた。
ではデビュー後の目標は。
「決勝に残ることです」
1回生のガールズケイリンのレースはあまり見ていないが、年の瀬のガールズグランプリのレースは京王閣競輪場のスタンドから観戦した。加瀬加奈子がレースをつくり、小林莉子が優勝を遂げる。井上も心が震えた。
「ロードとはまた別の雰囲気で、いいなと思いました。お客さんが入って、すごくがやがやして盛り上がっている。すごい勝負をしているという感じでした」
いずれ自分もそんなレースで走りたい。観客を沸かしたいと思う。期待に応え、自分なりの走りをしたい。
「お客さんを納得させるためには、もっと頑張るしかありません」
健気である。まっすぐである。尊敬する人物が「両親」という。
「いままで育ててもらったし、いろいろと支えてもらっているからです」
ガールズケイリンで結果を残し、両親を喜ばせたい。
「とにかく親には心配をかけたくありません。けがをしないようにして、競輪の賞金でちゃんと生活できるような選手になりたい。周りから尊敬されるような人になりたい」
失礼ながら、顔にはあどけなさが残る。恐る恐る聞く。「年齢(25歳)より若く、見られませんか」と。
「みんなに中学生でいけるといわれるんです。顔がまんまるいんで…。年相応に見られるよう頑張りたいです」
高校時代に家庭科部にいたから、お菓子づくりが得意である。「私のクッキー、おいしいですよ」。好きな役者が映画俳優の「ウィル・スミス」。夢は、と問えば、ほっぺをイチゴのように真っ赤に染めた。
「結婚して、将来、自転車の指導者になることです」
まず、その前にガールズケイリンに挑む。どちらかといえば、おっとり型。少し気弱そうに見えるけれど、まっすぐ見つめる目には強い意志が漂う。
声が少し強くなった。
「とにかく、お客さんに喜んでもらえるようなレースができるよう頑張りたいです。自分で展開を作って、自分が組み立てられるようなレースをしたい」
そのためには一に練習、ニに練習である。先行でも、まくりでも、もっと脚力をつける必要があろう。

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目指す「強い選手」を富士山のてっぺんとすれば、今はどのあたりを。
「すそ野です。まだ全然、ダメですけれど、必死で登っていきたい」
千里の道も一歩からである。
自分を信じ、イバラの道を歩んでいく。