プロデビューを目指す競輪学校生徒サイト

『大きな山を目指せ。学校はすそ野づくり ~滝澤正光校長編①~』

2013/03/04

再び、春がやってきた。
  
競輪学校の校舎1階の廊下の窓際には白梅と紅梅が活けてあった。窓からの風もどこかふわっとやわらかい。
滝澤正光校長がふと漏らす。
「もう1年が経つのか。びっくりです」
光陰矢のごとし、とはよく言ったものである。ちょうど1年前、男子101回生、女子1回生(102回生)を送りだしたと思っていたら、もう次の男子103回生、女子2回生(104回生)を見送ることになる。
校長室の応接セットの机には1年前の写真が置かれていた。白梅と紅梅を背に滝澤校長が写っている。校長が笑う。
「なんだか、演歌歌手のジャケット写真みたいですね。売れない演歌歌手の…」
自身の現役時代を思えば、花とレースが重なることもある。「桜前線」のごとく、「春競輪前線」もあったのかもしれない。桜がつぼみの頃なら松山競輪、咲き始めなら伊東競輪、花の盛りが川崎競輪の「桜花賞」、最後は北に上がって越後の弥彦競輪…。
「花とともに記憶がよみがえります。千葉から伊東記念競輪に向かう時、熱海あたりには梅が咲いていました。川崎競輪は桜。敢闘門が桜のゲートみたいになっていた。花と共にシーズンが流れていく。花なんか、わたしには似合わないですけど。ははは」

現役時代の夢をみる
 プロとしての責任を感じる 

20130221_G4C1178.jpg

いつも謙虚で実直。人懐っこい笑顔を浮かべ、しきりに照れた。栄光と称賛に包まれた通算787勝の“怪物”。現役時代を花に例えると、「バラ色」だったに違いない。「じつは」と少し小声になった。
「最近、現役時代の夢を見るんです。やめてもう4年以上経つんですけど、レースの夢を見るんです」
1位でゴールしたときの夢かと思えば、召集のときの場面が多いという。第何レース集合してください、と招集がかかる。が時間に遅れそうになる。
「競技生活の緊張感がからだにこびりついているのかもしれません。競輪は時間、イコール売り上げですから。遅刻したり、何かしたりすれば、売り上げに響くわけです」
あるいは、現行制度ではありえないけれど、現役復帰し、もう一回、バンクを走っている。
「あれ、おれ、現役復帰したのかなって夢の中で思うんです。競輪人生に未練はないですよ、まったく。自分なりにやりきったということで引退したんですから。まあ、そんな夢をよく見るんです」
なぜ競輪の夢を見るかといえば、それはもう競輪学校の校長をしているからだろう。生徒と関わっているから、刺激され、遠い記憶がよみがえるのだ。
「プロを目指している生徒のそばにいるから、やっぱりいろんなことを考えてしまいます。自分ならこうする、ああするというのもある。プロとしての責任や行動などを生徒にいつも言っています。だから、寝ている間に昔を思い出すのでしょう」

激闘のガールズグランプリ
 小林、加瀬・・・。1回生の成長に喜び。


女子生徒の2回生は18人。1回生の33人からは随分減った。その分、「少数精鋭」というか、平均的にレベルが高いようだ。
滝澤校長の目元が少し緩む。
「能力的に抜けた生徒はそういないんですけど、前回の記録を塗り替えています。少しずつ、ガールズケイリンのレベルも上がっていくんじゃないでしょうか」
1回生の時はまだ、ガールズケイリンの全容がはっきりとは見えてなかった。だが実際、ガールズケイリンのレースが1年実施され、開催方法や賞金、ファンの反応なども分かった。例えば、年末のガールズグランプリの優勝賞金は500万円だった。
「1回生のときは目標がはっきりせず、焦点があっていない部分もあったと思います。漠然としていた。でも今は、はっきり見えています。目標がはっきりしている分、練習にも集中しているような感じがします」

20121228_U7C0470.jpg

昨年末の第一回「ガールズグランプリ」(京王閣競輪場)では、最年少19歳の小林莉子が初代クイーンとなった。熱戦だった。それまで未対決の加瀬加奈子VS中村由香里の両雄の対決が焦点と見られていたが、レースは意外な結果に終わった。
とはいえ、小林はガールズケイリンの最初のシリーズ(平塚)でも優勝していた。つまり勝負強さを持っていた。滝澤校長は勝負の本質を知っている。
「終わってみれば、やっぱり優勝すべき人が優勝したのかな、という感じですよ。小林選手は練習で強くなった選手です。学校時代から自主トレも熱心にやっていた。やっぱり努力が実を結んだんじゃないですか」
1回生の成長をみると、滝澤校長はうれしくなる。とくに学校時代、苦労していた生徒がプロになって努力を積み重ね、少しずつ強くなっている姿を見ると、ああ、よかったなあ、と思うのだ。
また本命だった加瀬の「先行」にこだわった走りも称賛に値する。
「レースとしては、加瀬選手の圧倒的なパワーが印象に残っています。8割、9割がた、レースをつくっていましたからね。力強かったですね」
いわゆる、「グッド・ルーザー」というものか。チャレンジしての敗戦は、いずれ成長の糧となる。昨季の女子最優秀選手は加瀬だった。

生徒のレベルも指導法もアップ
 巳年。実を結ぶトシに。

「1回生の時は“手探り”の部分が多かった。頭とからだが一致しないというか、頭ではこういう風にわかっていても、生徒にうまく伝わらず、苦労したこともありました。でも2回生は一回生の指導で学習できているので、より練習で追い込めました」
どういうことかというと、1回生の女子生徒に関しては、体力の限界ポイントがよくつかめなかった。周回練習にしても、スピード練習にしても、2回生の方が、より限界に近く、追い込めた実感がある。結果、2回生のほうがレベルアップしたのだろう。
「1回生のときは力にちょっと幅があった。2回生では、全体的なレベルアップと同時に底上げもできました。人数が少ないからといわれるかもしれませんが」
コミュニケーションのとり方も少し、変わった。滝澤校長は2回生相手に冗談を口にするようになった。
「女子生徒たちが見えてきたので、このくらいの冗談ならいいのかなって分かってきました。あまり女性とは縁がない人生だったので、1回生の時は最初、どう対応していいのかわからなかったんです」
そういえば、1回生の時、女子生徒の指導者から話を聞いて、指導マニュアルを作成した。例えば、男子職員は女子生徒と1対1の空間では話をしない、多くの生徒の前で一人の女子生徒をほめてはいけない。女子生徒の体型に関する発言は慎む…。
「1回生の時は頭でっかちというか、マニュアルにがんじがらめにされていました。今は微調整して、柔軟的に対応しています。これからももっと指導の精度を上げてやっていきたいと思っています」
女子選手は1回生が33人、2回生は18人。これで5月からトータル51人となる。選手が増えることは、ファンにとってはいいことである。車券を買う場合、選択肢が増える。
「お客さんにより楽しんでもらえるよう、選手たちにはしっかり、自分の力を上げていってほしいと言っています。加瀬選手に力勝負で挑んでいけるような選手がどんどん出て、ガールズケイリンのレベルを押し上げていってほしいと思います」
いずれにしろ、競輪学校とは、基礎づくりの場である。大きい山になるためにはすそ野が広くないといけない。つまり、競輪学校の練習とは、競輪選手としての山のすそ野をつくる作業なのである。
滝澤正光校長は年明け、新年の訓示で今年の干支の「巳年」にふれ、「実を結ぶ年にしよう」と訴えた。
「目先の目標にばかり縛られると、考えが小さくなると思います。学校では、先々にも大きく伸びていけるような基礎作りをやってもらいたい気がします。基本に立ち返り、しっかりすそ野を広げていくのです」